H 大変なプロジェクトになるだろうことは、もともと想像していました。新しいことをしようとすると、反対意見が出ることは、いままでも技開本で経験していましたから。さらに今回はIHIグループ全体の取り組みだったので、その壁がさらにもう一段高いところにあった。ただ、いつもよりもハードに頑張った分、成功したときの達成感、喜びもいつもより大きかったという感覚はあります。
N ロボコンに代表されるサークル活動でのものづくりを体験した人ならわかると思うのですが、短期間でお題に合わせてものをつくるのは、本当に大変なんです。だから、そのしんどさは承知の上で参加はしていました。わたしは技開本の人間ではないので、横串での活動において、想像していなかったタスクがあったのは事実ですね。
──みなさんは社内副業という制度を活用して今回のプロジェクトに参加されたとか。
S もともと今回のプロジェクトはボランティア活動として進めるつもりでした。ただ、安全上の管理でいえば万が一事故が起こったときの労災の問題がある。また、横浜事業所以外の人のための宿泊費や交通費といったものを有志のカンパでカバーするのは難しい。ちょうど社員のやりたいという思いを実現する「社内副業」という制度があったので、会社の支援が必要な部分で使ったという流れでした。社内副業は業務時間の20%を本業以外に充てられる仕組みです。今回はその範囲に収まらない特殊なプロジェクトだったので、いったん20%を超えた部分は有志による活動という扱いにしてスタートしました。
H 社内副業という制度では使える時間が明確に決まっているので、深夜や土日の稼働はどうしてもボランティアとして参加せざるをえませんでした※。ものづくりにおいては、時間を度外視して頭を使い、ようやく出てくるアイデアもあります。これを会社として支援する仕組みがないと、面白いものづくりはできないのかなとも思いました。[※インタビューのあと、社内で議論が行なわれた結果、「魔改造の夜」に関する準備や作業などは、業務として認定されることとなった。]
N スタートの時点から、これが業務なのか有志による活動なのかが、あいまいなところはありました。そういう線引きがしっかりできていなかったことは少し残念でした。ここが解消できていれば、もっと多くの人が参加できたような気もします。
──コミュニケーションについては、何か課題はありましたか。
S 正直なところ、プロジェクトの進捗はほぼわからなかったです。Teamsを見て頑張っているのは知っていましたが……。現場に行くと、この要素については試験が成功しましたと報告を受けるだけで、全体のプロジェクトがどこまで到達しているのかはわからなかった。「サポートメンバーが欲しいです」という声もいただいたのですが、具体的にどれだけ遅れているかがわからないので、何ができる人を何名投入すればいいかは見えない状態でした。
H チーム間で進捗を管理するために、タスク管理はしていたつもりでしたが、なかなかタイムリーに更新できなくなっていました。一応情報は出しているつもりではありましたが全然足りていなかったんだなと、いま痛感しています。
N 特に後半は、全然手が回っていませんでしたね。リーダーとして客観的に状況を見て支援を要請することができればよかったんですが……。自分が設計をやってしまっていると、なかなかそこまで手が回らなかったというのが実態ですね。
──プロジェクトマネジメントについてはどうですか?
N 自分主体でやっていたところに限界を感じています。細かい問題は、基本自分の判断で解決していったことが多かったですし、大きな問題が起きたときにもその場にいる人にアイデアをもらって、自分でサクッと具現化することが多かった。もっと他人に任せてメンバーの能力を活かせればよかったです。自分の力量の限界で勝敗が決してしまったという反省があります。
H こちらのチームでは、正直なところ自分よりも力量がかなり高いメンバーが集まっていたという印象で、進め方はちょっと違いました。みんなで集まってやることを決める。決まったことを自分が整理して、進める順番やスケジュールを切る。最後の1〜2週間はずっとこれを繰り返していました。一方で、分業化はできていたものの、現地にいるメンバーだけで回してしまったという後悔はあります。もっと外の人に手伝ってもらえばよかった。ただ「いますぐ10時間動ける人が欲しいです」と各事業所に聞いても、それは難しい。だから「いつでも声を掛けてくれれば動ける」というサポートメンバーを、ある程度確保しておく必要があったのかなと思います。
S わたし自身は「プロジェクトを成功させる」というところに、もっとコミットすべきだったと思っています。当初は、「IHIグループで横串を通してものづくりをしよう」という目標があった。それは結構実現できていたので、つらいところはサポートしつつ最後の最後は手伝おうかな……くらいの気持ちでした。勝利にコミットしなければと思っていれば、もっとできることはあったなと思います。
──今回、IHIは「全社の力を結集できた」といえそうですか?
N 技開本ではないメンバーとして言わせてもらうと、関係会社や派遣のメンバーも声を上げることで自主性に任せて参加できたことは本当によかったです。普段の業務で同じ立場で同じタスクをこなすことは、ほとんどありませんから。チャレンジしたいという声を上げればやらせてもらえる文化を感じました。あと、プロジェクトを面白がってもらえたのか、他の開発の現場も非常に協力的でした。普段様々な試作をしている部隊や加工チームなどがかなり尽力してくれました。一方で、現場に任せ過ぎだったのではという気持ちもあります。メンターと呼ばれるようなベテランの力も借りられるような体制になっていると、もう少しやりやすかったように思います。
H 新居さんと同じくわたしも、IHIがもっている専門的な知識がある程度結集できたという感覚はあります。各分野のプロに仕事を分担してもらえたので、総合重工業メーカーとしてもっている幅広い知見が活用できたのかなと。一方で、ルールで決められた枠組みのなかで活動しなければいけない大変さは感じました。普段IHIで守っている基準とすり合わせて調整しないといけないところがあり、佐藤さんにはご負担をおかけしたのではないかと思います。
S 実は今回のプロジェクトで明確に「ルールを破った」ことは一度もないんですよね。解釈が定まっていないグレーな部分があったので、そこを突いたという感じです。IHIは安全面でいえばかなり厳しい基準をもっているのは事実ですが、ちゃんとルールをひも解いて、関連部門に相談してみると緩められる部分も出てくる。もちろん、人の生死に関わる危険な作業では緩められませんが。今回のプロジェクトでいろいろ調整してみて、やろうと思えば意外とできるという自信がつきました。