[分析・課題]直面した5つの現実と今後のステップ
The Way|浮き彫りになった課題
[分析・課題]

直面した5つの現実と
今後のステップ

「答えのないものづくり」が明らかにした
IHIの進むべき道

1カ月半の限られた制作期間、
所属の異なる全く知らないメンバーとの取り組み……。
「魔改造の夜」はIHIが不得手なものづくりの側面を明らかにした。
5つの現実と課題から、
未来のものづくりのためのステップまでを描き出す。

1.座組づくり
1.座組づくり

全社の力を結集するための
迅速な意思決定と風土形成

[現実]

「社内副業」制度を活用し、業務時間内での活動としてオフィシャルに会社が支援できる体制を構築したものの、その範疇を超える作業や予算については不明瞭なままプロジェクトの進行を優先した。また契約社員であることが理由で、社内副業制度の利用が難しかった人も。

[課題]

IHIという巨大な組織は、その扱うプロダクトの重厚長大さゆえに、部門ごとの強力な管理体制が構築されている。「魔改造の夜」では、そこを横通ししてプロジェクトを進めることに成功したものの、サポートメンバーからの自発的な協力は少なく、部署間の調整にメンバーの労力が割かれるなど「力を結集した」とは言いがたい側面もあった。

また自発的なモチベーションを活かす「社内副業」という制度が有効活用された事例となったが、稼働時間の制限や活用可能なメンバーの限定、予算確保の難しさ、社内での認知の低さなど、様々な課題を浮き彫りにする契機ともなった。

巨大な組織体制は、そこに膨大な人的リソースがあることにほかならない。ただしそれを活かすためには、一人ひとりのモチベーション、そして多様性と向き合う風土づくりが急務となるだろう。


[今後のステップ]
コミュニティの可視化と活用
活用可能な制度の周知・浸透
IHIがもつ多様性への理解
プロジェクトに応じた柔軟な予算運用
ものづくりを主眼とした交流の促進
「全社」に対する個人のコミットメント
2. チーム設計
2. チーム設計

エンジニアの力と意欲を
活かすための人員配置

[現実]

Teams上で「やりたい」と声を上げた若手が中心となりチームが構成されていったが、経験値の高いベテランの力を借りる機会は少なかった。また純粋なやる気に依存してしまったがゆえに、サポートが足りずプロジェクトの途中で離脱せざるをえなくなってしまったメンバーもいた。

[課題]

「魔改造の夜」を支えた社内副業という制度は、そもそも社員のモチベーションを十分に活用し、その人がもつものづくりの力を引き出すためにつくられた。

一方で、フローが複雑化する新しいものづくりの現場においては、実験場所の調整や突発的な経費精算、チームのマネジメントなど、「ものづくり」に取り組む以外のタスクも発生する。モチベーションを発揮してもらうためには、エンジニアが集中できる環境づくりのための人員配置が不可欠となる。

また、メンバーそれぞれが力を発揮するためには、試行錯誤を可能にする体制も欠かせない。プロジェクトのリーダーは、若手の失敗を許容する雰囲気づくりに努めなければならない。そのためには、リーダーがマネジメントに徹する余裕があるチーム設計が重要である。

さらに、若手の力を活かすためには、ベテランがノウハウを結集し自由に動くことができる環境整備も欠かせない。メンバーそれぞれが自らの役割を自覚しながら、チームのために動けるようなリーダーシップが求められることとなる。


[今後のステップ]
モチベーションの可視化
「シャドーワーク」の洗い出し
サポートを専門とするメンバーのアサイン
試行錯誤のための雰囲気づくり
若手の成功体験を導くベテランの協力
チームに対する貢献の意識
3.ミッション設定
3.ミッション設定

チームの向かう方向がぶれないための
方針の明確化と遵守

[現実]

「部署を横断した取り組み」という目的を設定し、実際に横通しで進められた作業もあったものの、「横断」が目的化したがゆえにプロジェクトに貢献しきれないメンバーもいた。全員のコミットメントを高めるためには、参加者全員が納得できるミッションの設定が不可欠だった。

[課題]

優勝者を決める競技である「魔改造の夜」は、スピードやパワーといった基準が明確にあり、ゴールが明らかなように思える。ただ、ものづくりのプロセスそのものから設計しなければならないプロジェクトでもあったため、参加するメンバーそれぞれが向かうベクトルのズレが取り組み方に違いをもたらすこともあった。

会社のために設定されたミッションであったとしても、参加するメンバーの立場が異なれば、それに対するコミットメントのやり方は異なってくる。メンバー全員の参加意識を高めるためには、誰もが腹落ちできる明文化されたミッションの設定が不可欠だ。また、ミッションを設定するだけでなく、その徹底したメッセージング(伝達)も忘れてはならない。

そして、定めた方向性に対してブレがないかの確認を定期的に行ないながら、その遵守を評価基準として活用することも重要である。


[今後のステップ]
ミッション決定のプロセス設計
目指すべき方向性の明文化
評価基準への落とし込み
実践しながらの定期的な振り返り
明確なメッセージング
ものづくりとミッションの連動
4.プロセスの透明化
4.プロセスの透明化

課題をチームで解決するコミュニケーション

[現実]

Teamsなどのツールを活用しリモートでの参加をサポートする体制を構築したが、運用が間に合わず、結果として現場での作業がブラックボックス化してしまった。「透明化」自体をタスクとしてとらえ、そこにリソースを割り当てる意識が必要だった。

[課題]

対面での会話、電話、メール、チャット、リモート会議……。情報伝達のためのツールが多様化している状況で、いかに課題解決に向けてチームの力を結集できるか。コミュニケーションのスキルも「魔改造の夜」では問われることとなった。

そもそも、フィジカルに存在する製品を扱うものづくりでは、目の前に存在する部品や試作品を見ながら議論することが不可欠になるため、遠隔で参加するメンバーに対する情報共有はおざなりになってしまうことも少なくない。ただ、取り組むべき課題は複雑化しながらも専門分野の細分化が進む現代では、物理的な場所を共有できるメンバーだけでは課題の解決に必要な知識が足りないこともまた事実である。

現場からこと細かに情報共有を行なうことで、状況を可能な限り透明化すること。さらに遠隔で参加するメンバーが発言・協力するための心理的ハードルをできるだけ下げる雰囲気づくりも不可欠になる。


[今後のステップ]
情報共有というタスクの認識
遠隔で参加するメンバーへの信頼
状況を簡潔に共有するスキル
ツールごとの特性の把握
現場で足りない知識の言語化
5.プロジェクト管理
5.プロジェクト管理

危機に対応するための
柔軟なマネジメント

[現実]

度重なる不測の事態に対して、深夜にまで作業が及んだり、有志による活動に頼ったりすることが多く、スケジュールも後ろ倒しになってしまった。計画通りに進まない可能性を想定し、どんな事態に対しても迅速に対応できるマネジメント体制の構築が不可欠だった。

[課題]

ゴールが与えられ、そこに向かう計画を立てたとしても、当初の想定から外れた事態に何度も陥る。常に環境は変化し、絶対に成功すると思っていた解決案が打ち砕かれる。誰もつくったことがないものづくりに立ち向かうためには、そんな危機的状況への対応が求められる。

これまで試行錯誤して積み上げて得た知見を捨てる決断や、抜けてしまったメンバーの穴を埋めるためのマネジメントといった難しい対応を行なうためには、プロジェクト全体を俯瞰する目線をもちながら、自分たちが定めたミッションに従い状況を柔軟に判断しなければならない。

また、目の前の現実を直視しながら、様々な制限と向き合うことも重要である。ルールは守るために存在しているのではなく、必ずそれがつくられた理由となる目的がある。いま自分が置かれている状況からそれを解釈しなおし、プロジェクトを前に進める姿勢が不可欠となる。


[今後のステップ]
状況を直視する冷静さ
前に進むための実用主義
ミッションへの立ち返り
全体を俯瞰する目線
既存のルールの再解釈
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