CONCEPT

サステナブルな社会のために
多様な技術でできること

感染症対策や防災などの人の暮らしの安全性から、地球環境の課題など、IHIグループでは様々な問題に取り組んでいます。これまで培った技術をいかした、新たなものづくりのあり方を紹介するとともに、IHI技術開発本部トップ2名のインタビューなどを通して、実現したい姿を明らかにしていきます。

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感染症対策や防災などの人の暮らしの安全性から、地球環境の課題など、IHIグループでは様々な問題に取り組んでいます。これまで培った技術をいかした、新たなものづくりのあり方を紹介するとともに、IHI技術開発本部トップ2名のインタビューなどを通して、実現したい姿を明らかにしていきます。

未来の人々の幸せを支える技術

技術開発本部 本部長 久保田 伸彦インタビュー

企業が社会課題に対応しながら、全く新しいイノベーションを起こすにはどうしたらいいのでしょうか。技術開発本部 本部長の久保田は、IHIが目指すイノベーションは二種類あるといいます。研究者が新しい発想をするための仕組みと、社会に貢献し続ける企業としての姿勢を聞きました。

── 技術開発本部の本部長として、これから目指すイノベーションの理想形はありますか。

久保田: 目指すイノベーションのかたちは、二種類あります。一つ目は、不連続のイノベーションです。これまでの研究開発は、いわゆる改善を目指すものがメインでした。材料の軽量化や、エネルギーの効率化などです。しかしこれだけ世の中が変わってきていると、このやり方のままでは対応できません。石炭ではない燃料が必要になったり、ガソリンを使わない車が増えてきたりしていますよね。だから今までとは全く違う、不連続のイノベーションの創出が必要になってきています。

── 技術者として、そのようなイノベーションを生み出すために必要なものはなんでしょうか。

久保田:発想力ですね。手前味噌ですが、技術開発本部には面白いメンバーが揃っています。でも今までは、既存技術の改善に多くが注力していました。それはライバルも多いですし、血みどろの戦いなんです。だからもっと視野を広げて、世の中の情報を見つめて、ジャンプアップしてほしいですね。

── もう一つのイノベーションについても教えて下さい。

久保田:もう一つは、垣根を下げるイノベーションです。イノベーションと聞くと、ものすごい発明や原理の発見という印象を持つ人もいると思いますが、それだけではありません。社内で「普通」と思われていることでも、社外の人にとっては新しいこともあるし、もちろんその逆もあります。だから社内外の多くの人と対話をして、それぞれが持っている技術やアイデアを合わせて新しいものをつくります。たとえ大発見でなくたって、今までにないものならばイノベーションと呼べるんです。

技術開発本部 本部長 久保田 伸彦/IHI 横浜事業所内 i-Baseにて

── 二種類のイノベーションは質が大きく違うと思いますが、技術開発本部としてはこれからどのように進めていくのでしょうか。

久保田:来年度からはトップダウンで進める部分と、自由に研究する部分とを明確に分けます。会社の将来のために技術開発しないといけない内容については、ターゲットをしっかり決めて進めます。後者については、逆にトップが一切関与しない、グループの中だけで閉じた予算を作ります。

自由な発想のためには、自由な時間と予算が必要なんです。みんな真面目なので、業務以外のことを考えるのはよくないと思ってしまいます。日本の教育の影響もあるかもしれませんが、もっと好きなことをやれば良いんです。研究の質を高めるためには、仕事と全く違うことを考えたり、ぼーっとしたりする時間も必要です。そういうのを公に認めるための仕組みを作ります。

── 不連続のイノベーションを生み出すためには、仕組みとともに大事なものはあると思いますか。

久保田:企業が失敗を許すことですね。これまでノーベル賞を受賞したような研究のほとんどが、たくさんの失敗の上にあります。そのなかでずっと続けて、たまたま成功した研究が大きな功績を残しているんです。しかし企業が何十年間も研究者の失敗を許せるかというと、難しいのが実情です。3年で目処が立たないなら予算を切る、みたいなことが多いですよね。だから長い目で見て、もしかしたらいけるかもしれないなと思えたら、全社から隠してでも続けさせるのが大事だと思います。

── 逆に対話のなかで進める開発はどのような仕組みになるのでしょうか。

久保田:基礎研究に強い大学と、社会に実装する企業の役割分担ができるといいですね。アメリカやイギリスはそういう仕組みを作るのがうまいのですが、まだまだ日本は自前主義が根深いです。大学で進めているような研究にも企業が取り組んでいますが、今の時代にはそぐわないと思います。自社で持っておくべき技術をしっかり選択して、それ以外は社外の人たちと一緒に社会課題に向けて研究を進めるというのがコンセプトです。パズルがうまく組み合わさればイノベーションにつながると思います。だから「対話」などといっても、技術交流だけでは新しいものを生み出すのは難しいですね。

── 現在考えているのは、どのような社会課題ですか。

久保田:想定する課題は、カーボンソリューション、防災・減災、高齢化問題に対応する無人化、自動化です。そしてそれを支える技術として、材料や製造技術もターゲットに組み込んでいます。これまでよりも世の中に必要な技術を見つめて開発を進めるので、より社会への貢献がわかりやすくなると思います。

── 「技術をもって社会の発展に貢献する」 が、IHIのグループビジョンですね。

久保田:IHIは江戸末期からずっと、社会が必要としているものを提供してきたと思うんです。創業当初、江戸時代は造船をしていましたが、それは黒船が来航したからです。国の安全保障的な意味もありました。その後は人の移動をしやすくするために、橋をいくつも作りました。IHIは、人々の生活を豊かにしてきた自負があります。それは誰にでもできることではありません。
船や橋は、今よりも生活が不便だった時代の話ですが、今だってインフラの整備やセキュリティは必要です。環境問題にも対応しないといけません。CO2排出量は減らす必要がありますが、エネルギーの供給をやめるわけにはいかないんです。もう少し先の話だと、宇宙の方を考える必要もあるでしょう。これからもずっと、社会に貢献できる会社であり続けたいですね。いくら便利になった時代でも、人々を幸福にできる技術はまだあるんです。

(2021年11月16日 IHI横浜事業所にて)


技術開発本部副本部長 西尾俊昭/IHI 横浜事業所内 i-Baseにて

世の中に選択肢を増やすための技術

技術開発本部副本部長 西尾俊昭インタビュー

企業が環境問題に対峙すると聞くと、多くの人はCSR的な活動を想像するかもしれません。しかしIHIグループは、そのような課題にこそ技術開発のヒントがあると考えます。社内ベンチャーの、立ち上げからスケールまで関わった経歴を持つ西尾が、技術開発本部で目指す技術開発と、2022年度からのスキームについて話します。

── まず、西尾さんのバックグラウンドを教えて下さい。

西尾:私はIHIグループに入社して30年経ちますが、最初の15年間はセールス部門にいました。経済学部の出身なので、研究ではなくビジネスが専門です。その後、新事業を起こすチームでいくつかのプロジェクトを担当し、2014年にはエネルギー貯蔵の事業開発を命じられました。アメリカで技術開発をすることになったのですが、最初の従業員は私ともう一人だけ。倉庫のようなボロボロのオフィスを借りるところから始め、それから7年間アメリカにいました。最終的に60人規模の企業になり、受注も100億円を超えました。いわゆる社内スタートアップのような感じでしたね。

── その経験を、これから技術開発本部での活動にいかしていくのでしょうか。

西尾:そうですね。ただ技術開発本部は新しい事業を起こす場所ではなく、新しい事業を起こす技術を作るところなので、その違いはあります。私たちがこれから力をいれるのは、イノベーションを起こすためのプロセスを作ることです。

研究者は自分の専門分野にフォーカスしているけれど、ともすると狭い領域に閉じこもってしまいます。だからその研究がどう使えるのか、どのように他の技術とつながれるのかを考えて、プロセスを決めることが私たちの役割です。少し後ろに引いて見るための手助けですね。ミッションを設定するということでもあります。

── 技術開発本部が理想とするイノベーションは、どのようなものなのでしょうか?

西尾:一番わかりやすい鮮やかな例は、青色LEDのようなものでしょう。でもそんな大発明は、簡単には生まれません。ではどうするかというと、技術同士の組み合わせで、新しいものを生み出すのだと思います。製品に近いもの同士でなく、基礎的なテクノロジーを2つ以上つなぐことで、足りないものを補える、新しいイノベーションが起きると思っています。そしてそこに必要なのが、プロセスなのです。青色LEDのような天才的なひらめきは、もちろん世の中には存在します。でも企業としては、それだけを目指すわけにはいきません。技術は点ではなく面で考えると、違った側面が見えてきます。

── 具体的に、どのようなプロセスになるのでしょうか。

西尾:企画部がマーケットや情勢から社会課題を明確にして、それに必要なデータを集めます。その上で研究開発側と内容を共有し、目標に向かって研究を進めていく……というのが簡単な流れです。つまり、ゴール設定を明確にするんですね。とってつけたゴールではなく、社会に必要とされている技術を生み出す。マイルストーンを設定し、一段ずつ階段を昇るイメージです。

しかしこれだけでは、ものすごく斬新な技術は生まれないのも確かです。そのため来年度からはゴールを明確にした開発と、グループの裁量で進められる研究を明確に分けることにしました。これまでは、新しい研究をしようと思っても、承認プロセスが複雑な部分がありました。しかしそれを一切取り払い、予算内であれば独自に進めていいというルールにします。目標設定を持って管理する研究と、完全に自由な部分とを明確にしたのです。きちんと成果をあげるためには、プロセスは必要です。でもそれだけでは、ホームランは打てませんから。

── 今のIHIグループは、イノベーションをもって社会課題の解決を目指していると思います。ビジネスとの関連性ではどのようになるのでしょうか。

西尾:環境問題やESGに取り組むというと、まるでボランティアのようなイメージを持つ人も多くいます。CSRやメセナの延長なのかもしれませんが、企業にとっての社会貢献とは無償であると思われているのかもしれません。しかし、それは間違いです。企業は利益をあげながら前進する必要があります。昨今の例でいえば、可能な限り社会課題に対する技術を開発し、それをビジネスにもしていくのが理想です。何よりも社会課題は技術者にとっても新しい問題であることが多いので、そういう意味ではイノベーションも起きやすいのではないでしょうか。少し前まではCO2の排出に対して、ここまで議論は交わされていなかった。社会の変化は激しいですが、技術を開発しながら社会に貢献するという意味では、これまでIHIが100年以上やってきたことを続けていくのかなとも思っています。

── 技術によって、環境や生活をよくしていくのですね。

西尾:著名な人々が、環境問題の解決のためには、大量消費の資本主義や利便性の追求などを諦めざるを得ない、というようなこと言っていますが、私個人としては賛同しきれません。もちろん無駄にモノを捨てるのはナンセンスです。でも社会課題の解決と、便利な世の中の追求は、きっと技術が両立してくれるのだろうと信じています。すべての人がスローライフを送る社会にしようとしているわけではありません。人々が暮らしやすくなると同時に、温暖化なども解決していくのが目指すところです。何かを諦めるのではなく、世の中に選択肢を増やすことが技術、そして人間がやるべきことだと考えています。

(2021年11月16日 IHI横浜事業所にて)

聞き手・編集:角尾 舞(ライター)

PEOPLE
Nobuhiko Kubota
技術開発本部 本部長
PEOPLE
Toshiaki Nishio
技術開発本部 副本部長