PROJECT

大気からエネルギーを生む技術
その価値と使いどころを探す旅

IHIグループはこれまで、保有する豊富な技術と開発力を生かし、社会課題を解決するための製品やサービスを提供してきました。しかし、社会課題が多様化、複雑化する中で、「技術の供給」からもう一歩踏み込んだ形の開発はできないかと... View Article

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IHIグループはこれまで、保有する豊富な技術と開発力を生かし、社会課題を解決するための製品やサービスを提供してきました。しかし、社会課題が多様化、複雑化する中で、「技術の供給」からもう一歩踏み込んだ形の開発はできないかと... View Article

IHIグループはこれまで、保有する豊富な技術と開発力を生かし、社会課題を解決するための製品やサービスを提供してきました。しかし、社会課題が多様化、複雑化する中で、「技術の供給」からもう一歩踏み込んだ形の開発はできないかと考え、「技術の価値と使いどころを問い直す」という挑戦を始めました。

起点となったのは、大気中から水を生成するAWG(Atmospheric Water Generators)の技術調査でした。プロジェクトマネージャーの王鵬さんは「人口増加や水質汚染などにより世界各地で水を巡る問題が深刻化している中、新しい水源を確保するという視点からAWGに着目しました」と話します。王さんはもともと企画推進グループでエネルギー分野を担当しており、その観点からもAWGが生み出す水に注目していました。

王 鵬|技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ

水素エネルギーを生成する手法が複数ある中で、再エネ由来の電力を用いた「水電解法」は持続可能で環境に優しい水素生成方法です。しかし、日射量が豊富で再エネのポテンシャルが高い国々は水ストレスが高く、人口密度も上昇が見込まれることから、水素生成に必要な淡水量が生活用水をはるかに上回るという試算が出ています。

そこで、大気由来で資源に依存せず水を生成できるAWGに、同じく大気中から二酸化炭素を分離、回収するDAC(Direct Air Capture)を組み合わせ、より環境負荷の低いエネルギーを生成するシステムの開発を検討。中東への設置を想定し、現地の水ストレスを緩和するとともに産業と雇用を創出し、副産物を循環利用する、というコンセプトを立てます。

これはあくまで机上の検討に過ぎません。プロジェクトメンバーの渡邉倫子さんは「海外にどういうニーズがあるか、その国にどういうステークホルダーが存在して、われわれのシステムを置くと利害関係はどうなるか、といったことも全て机上検討でした。脱炭素やエネルギー転換といった『正論』を一方的に押し付けるのではなく、その地域や状況において『本当にありがたいと思われる技術』かどうかを見極めなければいけないと感じていました」と振り返ります。

渡邉 倫子|技術開発本部 技術企画部 連携ラボグループ

同じくプロジェクトメンバーの佐藤隆史さんは「IHIはものづくりの会社で、要求仕様に応えてものを作るのを得意としてきた会社であり、仕様そのものを考える経験は多くありません。それには社外の有識者やコミュニティーからの意見を取り入れる必要があると感じました」と明かします。「このシステムを地域に社会実装するために、どういうステップを踏んでいくべきなのかを知りたい」と、IHIがビジネスパートナー協定を結んでいる東北芸術工科大学に協力を求めます。

佐藤 隆史|技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ

話を受けた東北芸術工科大学の酒井聡教授は「技術をどこでどう使うべきか、机上ではなかなか見えてきません。具体的な都市を対象に、仙台でケーススタディーを行ってみては」と提案。東北芸術工科大学は仙台市との連携協定も結んでおり、仙台市が東北大学とスマートフロンティア協議会を設立してスマートシティー構想を進めているというタイミングでもありました。

酒井 聡|東北芸術工科大学 大学院 デザイン工学専攻長(修士課程) ・プロダクトデザイン学科 教授

ただし、当初のコンセプトで想定していた中東とは条件が大きく異なります。「中東のほかアフリカなど、再エネポテンシャルが高い一方で水ストレスが高い地域を対象に議論していましたので、仙台と自分たちのシステムに親和性はあるのだろうかという懸念があり、それは素直に伝えました」と渡邉さん。「すると酒井先生から『仙台市に合ったものを技術開発するのではなく、仙台市のさまざまなシチュエーションに対して自分たちの技術開発がどうあるべきかを考えてみては』と言われて、はっとしました」

酒井教授は「仙台は沿岸部、山間部、都市部を全て含み、一つの都市の中で多様なシチュエーションを観察できます。特定の地域としてではなく、個々のシチュエーションとして見れば、それは他の地域にも、他の国にも広げられるはずだと思いました」と説明。「AWG/DACについてもシステム全体で考えず、その機能一つ一つがどう使えるか考えてみることもできるのでは」とも。地域に縛られず、システムにとらわれず、「どんな状況でこの技術が価値を持ち得るか」を確認すべく、プロジェクトメンバーは、仙台市でフィールドワークを行いました。

視察先の一つが震災遺構「荒浜小学校」。津波の高さや当時の状況が分かる校舎や教室を間近に見て、展示や映像を鑑賞。プロジェクトメンバーの宇野博志さんが気付いたのは「メタネーションだけで考えず、水が作れると考えれば、避難した人の命を救えるかもしれない」ということでした。

震災遺構「荒浜小学校」

震災メモリアル施設「せんだい3.11メモリアル交流館」では、震災直後の生活の困難さや、復興に向けた取り組みが紹介されています。王さんが注目したのは、比較的早く復旧した電気に対して水道の復旧には長い期間を要したこと、都市ガスが止まる中でもプロパンガスは使えたこと。「宇野さんが言うように、水の価値そのものを考えるきっかけにもなりましたし、分散型エネルギーの価値を感じました」

震災メモリアル施設「せんだい3.11メモリアル交流館」

続いて訪れた「せんだい農業園芸センター みどりの杜」では、農業、就農支援、市民の交流拠点という多様な側面を持つ施設ならではの気付きがありました。「農業はバイオエネルギーと関わる部分で、水や二酸化炭素の利活用を考える上でも相性がいい」と宇野さんは語り、さらに農業とテクノロジーの組み合わせによるアグリテックの分野で「IHIの技術がこれまで想定していなかった領域にも広がり得るのではないか」と感じたといいます。

せんだい農業園芸センター みどりの杜

一方で、課題も持ち帰りました。宇野さんは「例えば避難所で使う規模感の装置では、ビジネスモデルとしては厳しい。だからといってやめてしまうのではなく、地域の避難所で使える可能性があるとしたら、そこからどうスケールアップさせて、最終的に目指すエネルギーにつなげていくか、道筋を付けないといけません」と指摘します。

宇野 博志|技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ

佐藤さんも「研究開発には当然コストがかかり、今は予算を投じて作るだけの経済的合理性がないので、どういった形で付加価値を上げられるかが重要です」とうなずき、「そこを埋めるアイデアを得るために、ぜひ酒井先生はじめ外部の方の知見をお借りしたい。経済的合理性が得られない部分について、社会的価値の創出でどのように補えるかが難しいところですし、一番の肝ですので」と力を込めます。

「佐藤さんの言う通り、社会価値も一つの観点として入れるべきだと感じていました」と話すのは王さん。「従来のエネルギー経済性モデルでは、目的関数として経済性(コスト最小化)が設定され、科学的・定量的な指標によって技術選択が行われますが、近年はエネルギー安全保障などの要素も考慮しないといけないと言われるようになりました。エネルギーも水も、安全保障や住民の安定的な生活における価値があると思いますし、そういったところも議論していきたいです」

経済的価値と社会的価値を両立させるには、どうすればいいのか。「これくらいの市場があるから採算が取れるというものを今までやってきましたが、今回は逆にどうしたら採算が取れるかを考えるという、新しいアプローチですよね」と佐藤さん。「目標が見えないものに取り組み、その目標自体をつくっていくこれからのプロセスは、IHIにとってもいい経験になると思います」

プロジェクトチームは今後、東北芸術工科大学の各専門家の先生とワークショップを重ねながら、可能性を探ります。「その状況に求められている技術を提供する」のではなく、「その技術が価値を持ち得る状況を探す」という挑戦。実現への道のりは引き続きCORE.techでレポートしていきます。


取材協力:
荒浜小学校
せんだい3.11メモリアル交流館
せんだい農業園芸センター みどりの杜
酒井 聡|東北芸術工科大学 大学院 デザイン工学専攻長(修士課程) ・プロダクトデザイン学科 教授
王 鵬|技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ
佐藤 隆史|技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ
宇野 博志|技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ
渡邉 倫子|技術開発本部 技術企画部 連携ラボグループ

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