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知られざる水と森の話(前編)
世界を取り巻く課題とは?

気候変動の影響が世界各地で顕在化する中、洪水や渇水の頻発、森林減少、水資源の偏在といった現象は、私たちの暮らしに直結する課題となっています。 こうした問題意識の下、2025年9月、大阪・関西万博でシンポジウム「知られざる... View Article

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気候変動の影響が世界各地で顕在化する中、洪水や渇水の頻発、森林減少、水資源の偏在といった現象は、私たちの暮らしに直結する課題となっています。 こうした問題意識の下、2025年9月、大阪・関西万博でシンポジウム「知られざる... View Article

気候変動の影響が世界各地で顕在化する中、洪水や渇水の頻発、森林減少、水資源の偏在といった現象は、私たちの暮らしに直結する課題となっています。

こうした問題意識の下、2025年9月、大阪・関西万博でシンポジウム「知られざる水と森の話~気候変動時代の社会とイノベーション~」が開かれました。水循環や森林が果たす役割を改めて認識するとともに、気候変動がもたらすリスク、その解決策について、多角的な議論が交わされました。

登壇者は、水循環に係る技術開発に携わるIHIの山内淑久さん、気候変動と自然災害の問題に科学とデータで挑む株式会社Gaia Visionの北祐樹さん、ドローンとAIで森林を解析するDeepForest Technologies株式会社の大西信徳さん、環境課題とサステナビリティ推進に取り組むGREEN EXPO協会の見宮美早さん、エコロジーとエコノミーの共存をテーマに活動する一般社団法人シンク・ジ・アースの上田壮一さん。水循環や気候変動を専門とする株式会社Aquniaの出本哲さんがモデレーターを務めました。

出本 哲|株式会社Aqunia

冒頭で出本さんは「水や森に何か課題があるということは、何となくイメージを持たれている方が多いと思います。一方で、具体的に何が課題で、今どんな取り組みが進んでいて、今後何が必要なのか、そして世界がどう変わっていくのか。そうした点を議論していければと思います」と趣旨を伝えました。

初めにIHIの山内さんが、必要とする水に対して供給量が足りているかどうかを表す水ストレスを示した地図を提示。象徴的な事例として、国際物流の要衝であるパナマ運河を挙げ、「水位が下がってしまって、これまで通れていた船の数が、何割も減るほど通れなくなっています」と説明しました。

山内 淑久|株式会社IHI

インドネシアの首都ジャカルタで起きている別の水問題にも言及。「ある川の流域から得られる水の量では需要を賄えず、地下水を汲み上げて暮らしています。その結果、地盤沈下が進むという新たな問題も生まれています」

シンク・ジ・アースの上田さんは、そうした現状を理解するところからスタートすることが大事だと話し、海をテーマにした本を作る中で知った「Ocean Blindness(オーシャンブラインドネス)」という言葉を紹介。「海について私たちは何も知らないという意味ですが、同じように、私たちは水のことも、森のことも深くは知らないんじゃないかと思います」

上田 壮一|一般社団法人シンク・ジ・アース

地球は「水の惑星」と呼ばれますが、上田さんが知って驚いたのは、その実態でした。「地球の半径が約6400kmで、マリアナ海溝は11km。水が存在しているのは、地表のものすごく薄い部分だけ。うち97%は海水で、私たちが使える淡水はわずか3%しかありません。しかも、その多くは凍っていたり、地下にあったりして、すぐには取り出せない。こういうことも私は全然知りませんでした」と明かします。

しかし、「知らないからこそ、関心を持つようになった」とも。「まずは『知らない』ということを認めた上で、水について、森について知っていくことが大事ではないでしょうか」と提起します。

水についての理解を深める資料の一つとして、Gaia Visionの北さんは気候変動が水循環に与える影響について、具体的なデータを用いて説明しました。現在、地球の平均気温は産業革命以前より約1.3℃上昇していますが、2.5℃上昇すると、豪雨は約1.2倍に増え、洪水の発生確率も約2倍になります。4℃上昇した場合、豪雨は約1.4倍、洪水の発生確率は4倍にまで高まります。

北 祐樹|株式会社Gaia Vision

洪水だけでなく、渇水のリスクも高まることが研究で分かっています。一見すると相反する現象が同時に深刻化している背景には、水がどのように土地を通過し、どのように蓄えられているのかという、水循環の問題があります。北さんは、都市と森林で雨水の挙動がどのように異なるのかを、シミュレーションモデルを用いて解説しました。

雨が降ると、コンクリートは水を全く吸収しません。地下に浸透せずそのまま川に流れ込むので、洪水が発生しやすくなりますが、同じ土地を森林に変えた場合、状況は大きく異なります。「地面に少しずつ雨水を吸収させる地下浸透と、表面で水を一時的に受け止め時間を稼いでくれることで、洪水を抑制する機能と水源を涵養(かんよう)する機能の両方が森にあることが、シミュレーションで分かっています」

このシミュレーションが理論上にとどまらないことを、DeepForest Technologiesの大西さんがタイの事例で紹介しました。「タイは昔、森林面積が50%を超えていましたが、利用が進んで20%台まで落ちました。その結果、洪水や自然災害が頻発するようになったため、林野庁のような自然保護のための組織ができ、取り組みが進んだ結果、現在は森林率が30%台まで回復しています」

大西 信徳|DeepForest Technologies 株式会社

森林の有無や管理が、水害リスクと密接に関係していることが分かります。では、日本の森林はどうか。大西さんは、日本の現状についても言及しました。「森林には国土を保全する機能があります。木が生えていない場所では、雨が降ると土が非常に流出しやすくなりますが、森林になると、根がしっかりと土をつかみ、土砂の流出量が減ります」

天然林か人工林か、人工林であっても管理されているかどうかによって、機能には大きな差が生じるといいます。「管理されている森と、管理されていない森では、土砂の流出量や土砂災害の起きやすさが変わることが分かってきています」

特に問題とされているのが、管理が行き届いていない森林の増加です。「管理されていない森林では、光が地表まで届かず、小さな木がほとんど生えてこなくなります。そうすると根っこの量が減り、多様性も失われ、土砂が流出しやすくなります」

日本では、伐採後に再び木を植える「再造林」が行われることも減少しています。「再造林率はおよそ4割で、6割は再造林がされていません。伐採後の土地が荒地のまま放置されることで、土砂災害のリスクは非常に高まります。

「やった方がいいのはみんな分かっているのですが、お金や人手が足りず、過疎化も進んでいる中で、できていないのが現状です」。森林の管理を林業の問題としてだけ捉えるのではなく、過疎化や地域の持続性と一体で考える必要があると指摘しました。

GREEN EXPO協会の見宮さんは、日本に暮らしていると実感しにくい、より危機的な状況にある海外の水資源不足の現実を伝えます。「日本でも明らかに状況は悪化していますが、それでも水で本当に苦労することはあまりないと思います」。確かに、日本では水道水が安定して供給され、日常生活の中で水不足を強く意識する場面はほとんどありません。

見宮 美早|GREEN EXPO協会

しかし見宮さんは、その感覚が世界では決して当たり前ではないことを強調しました。「私たちが途上国でコロナ対策を行う際、何が一番困ったかというと、手洗いの習慣がないことで、手を洗うためのきれいな水がないんです」。見宮さんによれば、需要に対して水が足りていない人は、世界で29億人に上るといいます。

気候変動の影響で、それまで住んでいた場所で暮らせなくなる気候難民も発生しています。「2050年までに、2億人以上が移住を強いられるとされています。昨今の気温上昇や気候変動の状況を考えると、さらに数億人規模で移住を余儀なくされる可能性があります」。見宮さんは、これを「人間の安全保障」という観点で捉える必要があると述べ、「国際協力の現場では、人間の安全、生命の尊厳に関わるような危機が、アフリカや南アジアをはじめ、世界の多くの地域で起きています」と訴えます。

上田さんは、これまで「遠い世界の出来事」と捉えられがちだったこうした問題が、日本でも現実のものになりつつあることを誰もが実感しているのではないかと話します。「数年前までは途上国の話、遠い世界の話だと思っていたかもしれません。でも、日本でも洪水は本当に頻繁に起こるようになりました。たとえば今年は大船渡で山火事、新潟や宮城ではダムの水がなくなって渇水が起き、作物が育たなくなるといったことも起きています」

「われわれ日本人より、もっと厳しい状況に置かれている人たちがいることに想像力を働かせるのは重要」と前置きした上で、「私たちの未来がどうなるのかということも、身近な問題として考えていかなければいけない段階に来ているのではないでしょうか」と警鐘を鳴らしました。

(中編に続く)


取材協力:
出本 哲|株式会社Aqunia
上田 壮一|一般社団法人シンク・ジ・アース
北 祐樹|株式会社Gaia Vision
大西 信徳|DeepForest Technologies 株式会社
見宮 美早|GREEN EXPO協会
山内 淑久|株式会社IHI