
水と森を巡る世界的な課題と、それが私たちの生活に迫ってきている現状が共有されました。モデレーターの出本さんは「世界でこういうことが起きているんだ、というイメージは持っていただけたと思います。その上で、具体的にどんな取り組みが進んでいるのか、今後何が必要なのかといった話ができればと思います」と進行しました。
具体例として、IHIの山内さんがインドネシアでの事例を紹介しました。IHIは住友林業株式会社との合弁会社NeXT FORESTで、熱帯の泥炭林の水管理や火災抑制、カーボンクレジットとしての価値創出に取り組んでいます。
「まずびっくりしたのは、その壮大なスケールです」と山内さん。数万ヘクタールの植林地を持ちながら、さらに大きなエリアを保護林として管理しています。水を蓄える機能や生物多様性の観点から保護しているもので、保護を始めてからオランウータンの数が増えるなど、目に見える成果も現れているといいます。

一方で、広大であるがゆえの課題も浮き彫りになっていました。「生物多様性の評価なども全部、実際に森に入ってカウントするなどマニュアルで行っています。あまりにも広大で、土地を数値化したり価値化したりするのが非常に難しいという話を伺いました」
泥炭林特有の困難についても語られました。ジャングルの中に水路を切って植林を行う際、水位を下げた方が木の生育は良くなるものの、住友林業のような適切な水管理を行わずに水位を下げ過ぎると熱帯泥炭地の中にある微生物が酸素を吸って活性化し、自然発火してしまいます。2015年に起きた火災では1カ月半燃え続けて、その年に日本が出したのと同じ量のCO₂が大気にリリースされました。「どうやってコントロールしたらいいかというノウハウがデジタル化されていないのが課題になっています」
こうした課題に対し、技術側からのアプローチとして、DeepForest Technologiesの大西さんからドローンを使った森林解析の取り組みが紹介されました。レーザーを使ってドローンから鮮明な画像データを取得し、3次元で森林の状況を可視化。地形だけでなく、どこにどのような木が生えているかまで把握できます。

「解析で木を1本ずつ見つけて、何の木なのかを判別し、さらに木のサイズや、どれくらいCO₂を蓄えているかも分かるようになっています」と大西さん。幹材積(樹木の幹部分の体積)まで算出できるようになっています。「林業において在庫を管理するような技術で、どこにどれくらい在庫があるのかを知り、それを基に伐採計画を立てることができます」
将来的には水源涵養(かんよう)や土砂災害防止といった機能の定量化にもつながる可能性があるといいます。「価値が見えるようになってきたら、そこにお金が回ってくる経済システムもできるのでは」とも。
これに山内さんも同意しますが、インドネシアでは広大さが壁になります。「現地では空港からボートで3時間かけて植林地まで移動し、さらにその先に保護林がある。オランウータンの巣を見に行きますかと聞かれて、『ここから歩いて6時間です』と言われました」と。「ドローンは30分ぐらいで電池が切れてしまうので、技術的にもまだ難しいところがあると思います」。そのためインドネシアでは衛星から計測し、ローカルのデータと合わせ込みしているといいます。
一方、「可視化」に慎重な視点を提示したのがGREEN EXPO協会の見宮さん。「何か対応を考える際、特に途上国と一緒にプロジェクトをつくっていく中では、見える化する、データ化する、その上で検討するというプロセスが重要です」としつつも、「他方、そこにリスクもあると思っています」
「見えない価値、当面見られないであろう価値が、特に森林や水資源といった自然にはあると思っています。文化慣習に深く根付いた価値だったり、幸せや安らぎを感じるといった価値だったりは、どうしても測れない。そういう価値が換算されない、あるいはデータ化されないからといって見過ごされてしまうのは、大きなリスク」と指摘します。
生物多様性を経済的価値として扱うことについても、賛否が分かれています。「何をどう測るのか、クレジット化するのかという点は賛否両論があります。複雑なものを、あまりシンプルにしすぎないことも非常に重要だと思います」
この議論に関連して、「ちょっと妖怪の話をしていいですか?」と切り出して場を和ませたシンク・ジ・アースの上田さんが話し始めたのは、奄美大島のアダンにまつわるエピソード。「環境という視点で見ると、防潮林や防砂林としての機能が評価されるんですけど、奄美の人たちに聞くと、アダンの実は妖怪が嫌いなんだと言うんですよね」
妖怪が森から里へ入ってこないようにアダンがある。それは、かつてそこで暮らしていた人たちにとって非常にリアルな世界観でした。「森の中に妖怪が住んでいるという感覚が、奄美大島でずっと紡がれてきた文化であり、森に対するリテラシーの根源的なものになっていたりする。それを忘れてしまっていいのか、それとも残しながらサイエンスやテクノロジーを入れて、自然と人間の共生を考えていくのか。これはすごく大きな、面白いテーマだと思っています」
また別の視点で、上田さんは宮崎県で子どもたちが行っている、手すきの紙を復活させる取り組みを紹介しました。「今は製紙会社が大量生産していますけど、もともとは地域で紙をすいていました。そこに着目して、地域の森と暮らしをつなぐ手すきの紙の文化を、子どもたちが再び取り戻そうとしているんです。それは技術の再生であり、文化の再生でもある」と、上田さんは希望を感じたといいます。
山内さんは妖怪の話を深掘りしたかった様子でしたが、続いて水についての取り組み事例として、滋賀県の湖東平野で進めている農業用水の管理システムを紹介。「農業用水は河川やダムから引かれた用水路を通じて供給されますが、用水路からの供給水量が不足すると、地下水をくみ上げざるを得ません」。

地下水を取るにはポンプを使わなければいけないので、エネルギーも必要となります。
そこで、広大な水田地帯に点在する水門や水位の情報を一元的に管理し、どこが足りていて、どこが足りていないのか、どの水門を開ければいいのかといったことを集中管理できる仕組みを構築。無駄に使う水が減っていくという効能が得られます。
山内さんは、この取り組みが出発点であることも強調します。「究極的に流域での水循環を実現するためには、森の機能も回復しなければいけないですし、森のデータも、産業用データも生活用データも全部つなげていかないといけません」。現時点では農業用水のかんがい用地における水管理が中心ですが、「水をうまく使う」ことを広げていきたいと語りました。
これを受けてGaia Visionの北さんは、水管理を考える前提条件について話を広げました。「文化の話もありましたが、私たちの生活や文化を成り立たせるための水を考える上では、その水の量と、流域の広さ、時間のスケールをそれぞれ考える必要があります」
例えば「量」。「私たちが普段使っている水は、自然を生かしながら使っていることを分かっておく必要があると思います」と北さん。地下の放水路など人工的なインフラは、容量としては数十万立方メートルが限界で、それでも数千億円がかかります。
一方で、自然の地形を利用した水の貯留は、スケールが桁違いです。湖や川など自然の地形を利用した場合、何億立方メートルという水をためることができます。1000倍の差があり、「大きなものを造れば水の管理がうまくいくと思いがちですが、自然の地形を利用しないと、私たちの生活も文化も成り立ちません」。
ただし、こうした水の量やスケールを語れるようになったのも、技術の進展があってこそ。シミュレーションを通じて、世界でどれくらいの水が必要なのか、洪水時にどれくらい調節しなければならないのか、流域でどれくらいの水が求められているのかを把握し、課題のスケールに応じた対策を考えていく必要があると話します。「気候変動が進む中、人と自然がいかに共生しながらコントロールしていくのか。シミュレーションやさまざまな水インフラの技術を使って考えていければと思います」
技術による可視化と可視化できない価値。技術による水管理と圧倒的なスケールの自然。後編では、その両側を意識した統合的なアプローチで目指す未来像について語られます。
取材協力:
出本 哲|株式会社Aqunia
上田 壮一|一般社団法人シンク・ジ・アース
北 祐樹|株式会社Gaia Vision
大西 信徳|DeepForest Technologies 株式会社
見宮 美早|GREEN EXPO協会
山内 淑久|株式会社IHI


