PROJECT

共創で未来をつくるスタート地点
「世の中の社会課題の現場を見に行く」
活動(前編)

本サイトでは主に、IHIが協力企業や研究機関、他社と共に社会課題の解決に取り組んでいるプロジェクトを紹介しています。そうしたプロジェクトを進めるには、そもそもどんなことが今、社会課題になっているのかを知る必要があります。... View Article

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本サイトでは主に、IHIが協力企業や研究機関、他社と共に社会課題の解決に取り組んでいるプロジェクトを紹介しています。そうしたプロジェクトを進めるには、そもそもどんなことが今、社会課題になっているのかを知る必要があります。... View Article

本サイトでは主に、IHIが協力企業や研究機関、他社と共に社会課題の解決に取り組んでいるプロジェクトを紹介しています。そうしたプロジェクトを進めるには、そもそもどんなことが今、社会課題になっているのかを知る必要があります。今回はそのための取り組みとしてIHIが行っている「世の中の社会課題の現場を見に行く」活動についてご紹介します。

現場に足を運び、現実の社会課題に直接向き合うことで、表層的な理解にとどまらず課題の本質に触れる。その現実から得られる気付きや学びから、これまで見えていなかった新たな視点やアプローチを見いだして、より実効性のある解決策を模索する、というのが「世の中の社会課題の現場を見に行く」活動です。

きっかけは2023年、IHI技術開発本部でこれから10年先、20年先の技術戦略を練っていた時のことでした。プロジェクトメンバーの渡邉倫子さんは「SDGsの169のターゲットを俯瞰(ふかん)しながら、そのターゲットに対してIHIとしてどのような技術で解決できるかを検討するうちに、社会課題のつかみ方の甘さを痛感しました」と振り返ります。「私たちが何か考える時の基にしているのは、主に国や専門機関が出している資料で、社会で本当に何が起きているのかを見ないまま、二次的に加工されたデータだけを見て考えていました。果たしてこれでいいのだろうかと」

渡邉 倫子|技術開発本部 技術企画部 連携ラボグループ

ちょうどその議論をしていた場所が、IHI横浜事業所の新棟に2019年オープンしたイノベーション推進拠点「i-Base」。デザイン思考を取り入れ、お客さまと共に社会と向き合い、社会やお客さまの抱える課題に対して素早く新たな価値を提案することを目指して開設した場所で、その施策の一つとして「社会課題抽出思考」を身に付けるワークショップを行っていました。

前職の株式会社日建設計在籍時からi-Baseのハードとソフト両面に携わり、ワークショップを企画、運営した株式会社hdLの塚島健さんは「i-Baseのコンセプトとして、『スピーディーに新事業をつくる』ことを定義しました。それには何が必要かと考えると、デザイン思考、アート思考、そして社会課題抽出思考の3つ。これをそろえないとi-Baseはうまく機能しないと考え、そのための施策を始めました」と説明します。

塚島 健|株式会社hdL

3つの思考力を育むためのワークショップを重ねていましたが、コロナ禍により中断。そんな時に前述の通り、改めて「社会課題抽出思考」の重要性に気付いた渡邉さんは、塚島さんに助けを求めます。

塚島さんは「皆さん企業人ですから、どうしても目の前の仕事に忙殺されてしまう。それに、自分の経験からも言えるんですが、外にインプットに行くとさぼっているように見られそうで、上司や周囲の目を気にして行きづらいと思うんです」と理解を示しつつ、「それでも外に出てインプットしないと、1次情報に裏打ちされた情報が得られない」と提言。「皆さんと話して、新事業をつくり出すには社会課題を自分たちで見つけないといけないという意識の高まりが確認できたので、じゃあその社会課題を抽出しに行きましょう、となりました」

プロジェクトのテーマは「動脈産業が静脈産業に足を運ぶことでサーキュラーエコノミーを考える」。「生産して消費して、というリニアな動脈産業の真っただ中にIHIさんは長くいらして素晴らしいものを作り出してきた。でもこれからの時代、省CO2やリサイクルなどいろいろな観点から静脈側も大事だという認識が広がっています。もちろんIHIさんも取り組み始めていると思うので、それならば静脈産業で社会課題をインプットして、その純粋な気付きをIHIさんならではの高度な機能に落とし込んで、新事業を生み出す流れをつくってみようと思いました」と塚島さん。

金子 華子|株式会社hdL(写真右)

「ローカルで何が起きているか」「静脈産業の中心にいる企業で何が起きているか」「大自然、地球で何が起きているか」の3点を意識してインプットする場所として、徳島県上勝町および上板町と、群馬県前橋市を選びました。視察先の調査、選定、資料作成を担ったhdLの金子華子さんによる解説と資料の情報を交えながら、視察内容の一部を紹介します。

上勝町は徳島県のほぼ中央に位置する四国で一番小さな町で、人口は約1,400人。高齢化率が50%を超えています。日本の自治体として初めて「ゼロ・ウェイスト」(無駄、浪費、ごみをなくす)を宣言し、リサイクル率は実に80%に達しています。その視察先の一つが、町内唯一のゴミステーション「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」。上勝町ではごみ収集車は走っておらず、町民自らごみを持ち込み、13種類、43分別してかごに入れています。

ゴミステーション「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」
ゼロ・ウェイストアクションホテル “HOTEL WHY”

センターには、窓やソファ、カーテン、ラグなど、至る所に廃材や古材をアップサイクルしたものが使われている体験型ホテルも併設。「見学と併せてホテルに泊まることで、自分たちが出したごみを次の日に分別して、ゼロ・ウェイストのアクションも実際に体験してもらおうと、ここを宿泊場所に選びました」と金子さんは明かします。

上勝町ではそのほか、町の財政を立て直した株式会社いろどりの「葉っぱビジネス」の現場を視察。時代に応じたシステムづくりを行い、今や年商2億6000万円を超えるビジネスに成長しています。「上勝町を有名にした事業の一つです。もともと上勝町はミカン栽培が有名でしたが、冷害の影響でミカンの木が全滅し、町の産業を立て直す時に着目したのが、お刺身などの横にある葉や花などの『つまもの』でした。上勝町の森林や気候を活用でき、重労働ではないので上勝町の人口に多いご年配の方や女性でもできるビジネスとして成功されています」

上板町では、藍の栽培から染料となる蒅(すくも)作り、染色、製作を一貫して行う藍染め工房「Watanabe’s」を見学。「SDGsやサステナブルの観点から藍染めが世界的に見直されているので、同じ徳島で静脈産業の循環という観点で選ばせてもらいました」

群馬県前橋市では廃棄物処理事業やリユース事業を展開し、リサイクル率99%以上を維持する株式会社ナカダイの工場を訪問。「使い方を創造し、捨て方をデザインする」ことを掲げて展開している同社ナカダイグループのリマーケティングビジネスの事例を通して、静脈産業の可能性に触れました。

同じく前橋市では、典型的な「シャッター商店街」として教科書に載るほど衰退していた前橋商店街を活性化させたプロジェクトについて、行政と民間のキーパーソンから説明を受け、実際に商店街を歩き、関連する施設を見学。「シャッター街を再生するという流れを一種の静脈産業として捉え、視察先に選びました」

一連の視察を通してどんなことが得られたのでしょうか。後編では、プロジェクト参加メンバーの感想を交えながら、今後の展開と、「世の中の社会課題の現場を見に行く」活動のもう一つの目的である「共創」について紹介していきます。

(後編に続きます)


取材協力:
株式会社ナカダイ 株式会社モノファクトリー
HOTEL WHY/ゼロ・ウェイストセンター
pangaea,LLC.(合同会社パンゲア)
塚島 健|株式会社hdL
金子 華子|株式会社hdL
渡邉 倫子|技術開発本部 技術企画部 連携ラボグループ