PROJECT

アート作品と重工業技術の融合

私たちIHIグループは数ある技術を使い、顕在化された課題を確実に解決する今までの開発スタイルに加えて、自らの思考を通じて新たな課題を見つけ、その解決策をゼロから作ることでプロジェクトや事業開発を完遂させる力も必要と考えています。

SCROLL

私たちIHIグループは数ある技術を使い、顕在化された課題を確実に解決する今までの開発スタイルに加えて、自らの思考を通じて新たな課題を見つけ、その解決策をゼロから作ることでプロジェクトや事業開発を完遂させる力も必要と考えています。

私たちIHIグループは数ある技術を使い、顕在化された課題を確実に解決する今までの開発スタイルに加えて、自らの思考を通じて新たな課題を見つけ、その解決策をゼロから作ることでプロジェクトや事業開発を完遂させる力も必要と考えています。
そのための取り組みとして、パートナーである現代美術家 野村在 氏に協力を得ながら、新しい価値や疑問を世界に提示し続けるアーティストの考え方を研究開発プロセスに取り入れる活動を加速しています。

命の意味を問う作品『Echoes』への参画

野村氏が手掛けるアート作品『Echoes』の中に、IHIの技術開発員が専門技術を組み込み、芸術の街 ニューヨークで様々な人々の目に触れています。

Echoesは、故人のポートレート(写真)を、人間と等身大の大きさの水槽の水に印刷する立体作品です。
故人のポートレートはインクジェットプリンターを通じて水に印刷され、水中を彷徨い、そして消えていきます。それは、その人の存在とまたその消滅を可視化しているものです。命は生まれながらに死んでいく、その間にたゆたうものは何か。そして物質が消滅したあとに残るものは。人間の根本的な存在のあり方を問いかけます。

提供元:野村 在

この作品に参画する中で、私たちが航空・宇宙分野や化学プラント製造に活用している技術が、自社のみでは発想しえない役立ち方や表現の仕方ができることを見出しました。

プリンターと水槽の間に薄い川の流れを作る

通常、プリンターはインクを用紙に打ち出しますが、この作品ではインクを直接水槽に打ちだすことが必要です。一般的なプリンターは、ヘッドの吐出口と用紙の距離が出来る限り近くなるように設計されており、その隙間は1mm程度。インクは吐出口から広がって吐出されるため、この距離が離れてしまうと、途端に印刷は滲んでしまいます。 プリンターの底に穴をあけて水槽の上に載せただけでは、ヘッドと水面には10cm以上の距離がありました。吐出口と水の距離を近づけるために、本来、用紙が流れる部分に、用紙の流れに見立てた「薄い川の流れ」をつくり、そこにインクを吐出することを考えたのです。画像が印刷された川は、被写体の人物像を崩さないように静かに水槽に注ぎ込ませます。

水はその特性である表面張力でまとまろうとするため、一定の幅を持つ薄い水膜を作ることは容易ではありません。水がはじかれないように、水槽への水の流し方や水の接触部分の素材選びが大切であり、水の「濡れ」を制御する技術が必要でした。 IHIグループが手掛ける製品の中で、塗装が施されているものは塗装にムラやハジキがあると品質不良となるため、ハジかれないように塗料や被塗装面の濡れを良くする必要があります。また、別の製品においても装置を水で冷却する際にその部分が均一に水で覆われることが必要となり、「水で濡らす・水をはじく」技術を適用しています。今までの知見を活かして、水を流す最適な速度、形状、角度、素材などを検討し、あたかもプリンターから用紙が流れてくるような姿を水で表現することができたのです。

水槽の中で「美しくインクをひろげる」

提供元:野村 在

プリンターから水槽に落ちたインクを穏やかに水槽に広げるため、水槽の中にはゆっくりとした流れを作っています。流れが遅すぎると広がりが見せられず、速すぎると色彩がすぐに混ざってしまい、水槽全体が黒くなってしまいます。プリンターから水槽に落ちたインクの複数の色彩が混ざると水槽の中がすぐに黒くなってしまいます。被写体の人物像を水の中で再現するためには、複数のインクの混ざる速度を遅くして、それぞれの色彩が美しく広がっていくことを実現させる必要がありました。
IHIグループは「流れ」をコントロールすることも得意です。航空機用エンジン内部の流れやプラントの配管設計、倉庫の空調管理に至るまで私たちの製品には常に流体力学の技術が活きています。 Echoesでも、水の吸い込み・吐き出し方やその量、あるいは水に「とろみ」を付けるなど、たくさんのアイディアがあり、細部にわたる実験とシミュレーションを何度も繰り返しました。水槽の水の流れをいかにコントロールするかの糸口を見つけた結果、複数の色彩がそれぞれの軌跡をたどり、水槽の中で人物像を映し出すことを叶えたのです。

アート作品の製作に携わった技術開発本部の池田は、「『Echoes』のコンセプトや実現したいことを野村氏から聞いて強く共感したと同時に、自分の持つ技術で実現できるとすぐに感じた。アーティストは面白い・珍しいことだけを作品にしていると思い込んでいたが、実際は自分たちの作品が世の中にいかに新たな意味や価値を普遍的に与えられるものなのかを具現化して発信している。これはまさに私たちの目指す研究開発のやり方だ」と力強く話します。

技術が組み込まれている製品と技術そのものとを切り離し、その技術の持つ「機能」は何かを今一度考えると、社会において役立つことのできる場面が180度変わるかもしれない…この活動を通して私たちIHIグループが持つ技術の可能性を見出し、更に多面的に社会に役立てる形を探っていきます。

プロジェクト担当者

IHI技術開発本部 技術基盤センター エネルギー変換グループ 池田 諒介
IHI技術開発本部 技術基盤センター 制御・センシンググループ 李 尭希

パートナー

野村 在(https://www.nomurazai.com/)